患者の心医者知らず

  • 2007.04.23 Monday
  • 23:40
以前腰痛で治療したことのある患者さんが半年振りに訪ねてきた。雪の中で足がぬかり、転んで圧迫骨折を起こしたそうだ。幸い3ヵ月後の再検査で骨は治っていると言われたのに腰の痛みが取れないので、本人は他にどこか悪いところがあるのではないかと、大腸検査や婦人科の検査を受けたが悪いところが見つからなかったそうである。

痛みは長く腰掛けていた後や十分ぐらい歩くと腰が辛くなるもので、潰れた所を頂点に背中がかなり丸くなっていた。ひと通り疑わしい病気は無いことを確認しているし、それまでの経過と所見から圧迫骨折の後遺症と骨粗しょう症による腰痛と医者が判断したのだろうと思ったのだが、本人はそれに納得しておらず、この後何の検査をしたら良いのかと私に訊ねてきた。
「変だなー。単なる骨折の名残で痛いとはっきりしているのに、なぜこれ以上の検査を望むのだろうか」と気にかかった。

そこで「癌がどこかに隠れていないかと心配なのか?」と聞いてみると「そうだ」と言う。「両親や親戚で慢性の腰痛が実は癌だったと言った例があったのか」と聞くと、「そうではないが、人に肝臓癌だった腰痛の話を聞かされたことがあるので心配している」との事。「でもその辺の検査はほぼ終わって全て白だと結論が出ているのに、まだ納得してないのはなぜなのか?」と聞いてみたら「整形外科医は3ヶ月目の検査で骨はちゃんとくっついていると言ったのに」と言う。

なるほどそれで話は読めた。この方にとっての圧迫骨折は腕の骨をボキッと折ったイメージと重なっていたので、医者が使った「骨はくっついた」と言う表現は「患部は完全に治ったからもう痛くは無いはずだよ」と解釈されていたようだ。もう痛くは無いはずのところがまだ痛いのはもしかすると癌が隠れているからではないかとかえって心配してしまったらしい。

だから検査で異常が無いといわれても安心するどころか、あるはずの癌がまだ見つからない。こんなことをしていると手遅れになってしまうと一人途方にくれてしまったようだ。

こういうことは良くあることで、医者はこちらの説明に対する患者さんの反応を良く観察する必要がある。今ひとつ分かっていないとか、納得していない様子が見えたときはもう一度何が心配なのか問いたださないといけない。忙しさにかまけて、お医者様が言った事は信じるだろうと思い込んでそうしたサインを放置しておくと後で患者さんは思わぬ方向へ走っていってしまうことになる。

患者さんは様々なことを聞かされてやってくる。大概はガセネタだが、そうした思い込みや誤解を見つけたらそのつど解消しておかないと、竹に木をつないだような摩訶不思議な理論で凝り固まってしまい、後からその考え方を修正するのはえらい手間がかかる。だから面倒でも見つけたその場で正確な知識と入れ替えておく必要がある。

また、素人の患者さんに理解しやすいようにと、たとえ話で説明する医者もいる。これは気おつけないとたとえ話のうえに患者さんなりの推量が入った理屈が展開されて厄介な事態が発生することもある。
だから私は飲み込みの悪い患者さんほど安易な例え話をしないで、正確な医学情報を繰り返し説明することにしている。チャンスを捉えて何度でも正確な情報を話せば次第に分かるものである。
 
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