リスクマネジメントの意義

  • 2013.10.10 Thursday
  • 23:35
2008年から3年間をかけて行ったリスクマネジメント講習会における私の原稿をアップします。 何かの参考になれば幸いです。

1 リスクマネジメントの意義 リスクマネジメントはなぜ必要なのか  
 リスクマネジメントについて書かれた本の多くは、「事業にかかわるリスクを分析し、そのリスクをどのように管理・制御すればよいのか」という点について詳細に論じ、それでも損失が生じた場合に備えてどのような準備をすべきか書いてあるのが一般的です。  
 これを利潤追求だけが本来の目的ではない鍼灸院に置き換えて考えると、鍼灸治療は常に沢山のリスクを伴うので、そのリスクを上手く回避しながら治療を継続し、人々の役に立つとともに自分の生計も立てていくのにリスクマネジメントは必要になる。と言えます。  
 そして、もっとも肝心な事は、院長がどこまでリスク管理の重要性を認識しているかでその治療院におけるリスク管理の限界が決まると言う事です。  
 医療事故を起こすのは必ずしも知識や経験の不足した初心者とは限りません。むしろ統計的には、充分な経験を持つ熟練者が起こすことが多いのだそうです。そこにある原因は多忙、疲労、過信、慣れ、危険率の高さなどの要素が重なればミスや事故は起きます。  
 来院者数が増えるほどあらゆる項目の危険率は高くなり、逆に治療者側の管理力や注意力は低下します。さらにクレームをつける側も、あるところからは取るが、取れないところからは取らない。と言う心理も働き、ベテランになって流行ってくるほどにトラブルがクレームとして浮かび上がってくる可能性は高くなります。
 ですから、ベテランほど、そして流行ってるほど危険率は高くなります。患者さんの方の期待値も高くなるため、難しい疾患を治療する機会も多くなるし、患者さん側もすがってくるようになり、かえって見切りが遅くなりがちで、責任も重くなります。

2 リスクの洗い出し  
 まずは最も簡便な手法として思いつくままに箇条書きで「リスクの洗い出し」を行います。次にそのリストの中に記載された個々の問題について治療院の命取りになるかどうか、起こる可能性はどうか、対策にかかる費用、手間、得られる効果はどうか。など緊急に対応するものと、順を追って対応するものに分け、具体的な対策を練り実施していきます。 
 さらに一定期間が経った時点でそうした対策の問題点を洗い出し、改良を加えたり、新たな問題の発生があればそれに対する対策の新設も講じていく事になります。 針灸院におけるリスクとは、「鍼灸医療安全ガイドライン」にあげられる感染や有害事象(医療過誤、院内事故)だけでなく、症状悪化・無効果・セクシャルハラスメント、ゆすり、詐欺、プライバシー漏洩などと幅が広く、その対策は、技術的な安全管理のみならず、医療人としての人格、面接対応能力の向上まで含まれる事になります。
 さらにリスクマネジメントが治療院の経営損失を最小限に食い止める事を目的とする観点からすると、患者さんの不満や不都合を減らすことで患者さんの離脱率を下げるところまで含めて対策を練ることになります。 その辺までリスクとして洗い出しをして見ましょう。以下に私が現時点で考え付いた項目を並べてみました。

3 リスクに対する主な対策
 感染
  *針による細菌感染、ウイルス感染  まずは水平感染を防ぐ
  *空気感染   結核のハイリスク者をあぶり出し注意する    
  *飛沫感染   使い捨てマスクの用意
医療過誤、
  *折針   メーカー品の使用
  *火傷   箱灸の利用。灸頭鍼をしない。間接灸の管理
  *気胸   タオルをかけたときの配慮。ハイリスク者への注意
  *銀粒の埋没   注意事項の明文化
  *絆創膏かぶれ   貼る前の確認
  *抜針困難   ハイリスクの把握と対策
  *針の抜き忘れ   本数の確認
  *残針感   起きてからの説明テクニック
  *症状の悪化   詳細な分析と詳しい説明、いい訳より安心させるのを優先
  *失神   高温多湿座位に注意。寝不足、過敏者への配慮 安全な処置
  *出血   患者への声掛け。
  *金属アレルギー   事前の確認。医療機関への紹介と説明 
治療姿勢での悪化  
  脊柱管狭窄や下肢症状のある人の仰向け、梨状筋症候群や股関節痛の横臥、膝痛の膝枕なし仰向け、足首枕なしうつ伏せ、                          五十肩の臥位、めまい患者の横寝、喘息患者の臥位、     
院内トラブル 
  *転落   電動ベッド使用上の注意。手すり
  *急病   救命措置の訓練 対応方法の確認
  *誤診 見落とし   診断能力の向上 他人の診断を鵜呑みにしない
  *見立て間違いによる対応の遅れ   勉強 病態の見直し期間の設定
  *患者及び家族等関係者とのトラブル、病識のズレ   例え話をしない。納得するまで説明する。      
  *セクハラ    一人院での注意や工夫 鼠径部の触診、タオルのかけ方の工夫        
  *症状の悪化   安全な治療技術の開発 説明。
  *個人情報の漏洩   セキュリティー対策
  *養生不足   文書の配布 説得
  *挙動不審者対策   凛とした対応 住所、電話番号の確認
  *無理な要求   対応パターンを決めておく
  *後だし愁訴   治療前の声掛け
  *貸し出し物   貸し出し票 保証金
  *未払い 無断キャンセル 予約時間の無視 酩酊 犯罪 盗難  金銭、情報の管理
  *嫌がらせ   毅然とした態度、
  *詐欺     隙を見せない 
  * 風邪   室温とタオルの気配り 発汗 室温と個人差への配慮
  *匂い   香水への対処
  *咳   マスク、換気、
  *失禁   声掛け、ガウンの用意、紙パンツ 脱糞 後始末の準備
  *嘔吐  俳痰   ティッシュの処理方法 汚物処理 手袋マスク、

4 リスクコントロールの分類  
 テクニカルな観点や損失発生時期を基準に事前・事後といった考え方から、次のような手法に分類することができます。
1.リスクの回避 :診断力の向上 治療技術の向上 失敗談の勉強
2. 損失発生の予防・防止: 具体的な対策の実施
3. 損失の軽減 :医療者としての基本姿勢の確立。職業倫理の徹底
4. リスクの分散 :セカンドオピニオン、医療機関との連携、家族への相談
5.契約によるリスクの移転 :損害保険への加入、メーカー品の使用  
 鍼灸院においては、「事故を起こさないようにしないと治療院の経営は危うくなる。」また、「トラブルが少なければ経営は安定しやすい。」と言えます。

 
医療機関におけるリスクマネジメントの基本姿勢    
 医療機関におけるリスクマネジメントは、他の業種と違ってまず患者さんの安全と健康を守る事を優先させる面と、医療機関側の利益を守る面の両方があります。  
 いわゆる医療過誤の防止については患者さんの利益優先で対策を立てていくのが適切で、言いがかりの類には隙を見せない対策が優先されます。  
 また、人間は感情の動物なので、小さいトラブルがこじれてしまわないようにするには、日頃の言動や診療姿勢が非常に大事になります。洗い出されたリスクを分析、評価し対策を練るにはそうした大まかな分類枠を考慮しておくと良いと思います。 また、起こってしまった問題を解決する場合に医療機関は患者さんの感情的後遺症まで配慮すべきだと思います。日本人はお金より気持ちが大事なので、卑しくも医療者ならば被害者の心情を軽くし、心にしこりが残らないように願い振舞うことがもっとも大切であるからです。  
 常日頃から患者さんの安全と健康を第一と考える思想を身に染み込ませる努力をしていればこそ、とっさの時の判断と言動が患者さんにとっての被害を最小限に食い止め、被害者の精神的ショックを和らげる事につながり、その結果としてこちらの謝罪を受け入れてもらい、治療院としての被害を最小限に食い止める事が出来ると私は考えています。
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